効果はある?医師が語る育毛剤成分のウソ・ホント

巷にはさまざまな育毛剤が溢れています。しかしそれらに含まれる成分には、本当に効果があるのでしょうか。今回は書籍「最強!の毛髪再生医療 - 豊かな髪と再び出会える本」より、育毛剤の成分について記載されている箇所を一部抜粋して紹介します。
その成分、本当に薄毛に効果がありますか?
理論的には効果があったとしても、実際に効果があるかどうかはわからない場合があります。それは、発毛や育毛を謳う育毛剤の中に含まれている成分に関しても同じことが言えるでしょう。
育毛剤配合成分のうち、皮膚科学会で本当に効果があると認められている成分には「ミノキシジル」(毛母細胞増殖、タンパク質合成促進、血行促進作用)がありますが、そのほかにある程度は認められたものとして、
- 血行促進→塩化カルプロニウム、センブリエキス、酢酸トコフェノールなど
- 毛母細胞、毛乳頭への作用→アデノシン、t‐フラバインなど
- 角質軟化→サリチル酸など
- 栄養補給→ペンタデカン酸、ニコチン酸など
- 皮脂分泌抑制→エチニルエストラジオール
などがあります。
ミノキシジル以外の成分については、上に示したような育毛に対する効果はたしかに理論上ではあります。しかし、実際に発毛させるまでの効果があるかというと、それは甚だ疑問です。
世の中には、この理論的効果を過大にアピールした商品がたくさん出ていますが、実際に効いたという方はどの程度いらっしゃるでしょうか? 残念ながら、私はお会いしたことがありません。
例えば、ビタミンCはシミの元になるメラニンの生成を抑制するので、たしかに理論的にはシミに効果があります。しかし、ビタミンCを大量に摂っても、実際にシミが消えるまではいきません。シミを消すには、やはりレーザー照射しかないのです。もしシミを消したいのであれば、ビタミンCを病院で処方してもらって長年飲むよりは、1回レーザー照射したほうが効果は圧倒的に高いし、結局、費用も安くなります。
私が言いたいことは、どうせお金をかけるなら、広告に惑わされず、本当に効果のある治療法にお金を集中させなければ、お金も時間ももったいないということです。
先日、テレビショッピングで、「グリチルリチン酸」の効果をアピールし、グリチルリチン配合の育毛剤で発毛するかのような印象を持たせる商品を目にしました。
グリチルリチン酸は副腎皮質ホルモンと似た炎症を抑える作用などがあり、多くの化粧品に配合されています。しかし、私としては育毛に効果があるとは初耳でした。その後、私の調べた範囲内では、フケ、かゆみ、炎症を抑えて頭皮環境を整える作用は期待されるものの、発毛効果があるとはまったく言い切れないのです。
そのような眉ツバ的な商品もありますので、なんとでも創作できる体験談や美辞麗句に惑わされないで、業者がアピールする有効成分がどんなものか? 本当に効くものなのか? ぜひ調べてみてください。ネットでも簡単にできますので、まずは検索してみてはいかがでしょうか。
『リアップ』以外にも効果がありそうな商品
薄毛治療で当院で使用する漢方生薬の主成分は「紅景天」です。これは「チベット人参」とも呼ばれ、チベットの海抜4000メートル以上の超過酷な環境下で生育する生薬です。滋養強壮作用が強く、中国最古の薬草書物『神農本草経』には上薬(価値ある貴重な薬)として記載され、旧ソ連では宇宙飛行士の健康管理に用いられたほどです。
生薬の中でも毛母細胞を元気にするのに適していると、私は考えました。あとで紹介する『ヘアフィラー療法』と組み合わせることで、予想以上の結果も出ています。
イメージ的に効果のありそうな植物などの効能を謳った育毛剤はたくさんありますが、科学的に有効だと皮膚科学会が推奨しているのは『リアップ』だけとお話ししました。
しかし最近、持田製薬から出た『コラージュフルフル育毛スプレー』は良いかもしれません。一般的に薄毛になっていく女性のFAGAは女性ホルモンの減少によって起こりますが、この育毛スプレーには女性ホルモンが含有されていて、それを頭皮に補うことによって薄毛を改善させる仕組みです。
男性の薄毛にも効果が期待できるようで、値段も150mlで1800円(税抜き)とリーズナブルです。もちろん内服薬には到底及びませんが、補完には良いと思います。
ちょっと話は変わりますが、「化粧品は高くなければむしろ売れない」とよく言われます。化粧品に関しては、原価はともかく、高いものにはそれなりに高品質な成分が入っている可能性は高いからです。他方、美容医療の場合、原材料の納入価格や品質がまったく同じでも、医師が自由に価格を決められるため、医院によってかなりの価格差があるのが当たり前になっています。
例えば、シワ取りに使うボツリヌス菌注射。国内で流通しているのは、欧米製か韓国製で、米国製は「ボトックス」、韓国製は「ニューロノックス」と名前こそ違いますが、中身はまったく同じです。
ヒアルロン酸も欧米製と韓国製で品質に差はなく、価格差も安い物と高い物で1万円以上も開きません。
ただし、診療でまったく同じヒアルロン酸を使用しても、医院により3倍以上の価格差が出ることがあります。何も安い医院が粗悪なヒアルロン酸を使用したり技術が劣っているのではなく、その価格差がそのまま医院の儲け分になるわけです。全国共通のワクチンを使用するインフルエンザ予防接種が、医院により価格差があるのと同じ仕組みです。薄毛治療や内服薬にも同じことが言えるでしょう。
広告の「体験談」は鵜呑みにしない
個人的経験からの意見ですが、私は広告の体験談は信用しないほうがよいと思っています。当院での発毛施術はもちろんのこと、漢方シャンプーや化粧品など、すごく喜んでもらっている方がいらっしゃいますが、体験談を、ましてやご本人の写真掲載で依頼したところで、お金を払ったとしても応じていただけません。
特に広告に掲載されている体験談には、プロのコピーライターが都合良くまとめたものも含まれているケースがあるそうです。もちろんすべてが全部嘘とは言いませんが、本当にそこまでの効果があるかはおおいに疑問です。
いろいろだまされて失敗しても、「本当に生えてきた!」という体験談を見ると、「今度こそは!」と思ってしまう気持ちは私もわかります。しかし、「そんなに効くんだったら、だまされたと思ってやってみよう」と商品を買ったけれど、結局は本当にだまされるだけ、という経験をお持ちの方は多いのではないでしょうか。
体験談や、実際に生えてきたという写真を見せられると、ついつい信じてしまいますが、明らかに画像処理をしている広告もあります。本当に生えてくるなら、すでに医者だってやっているはずですよね。
これも私自身の経験ですが、ある医師向けセミナーに出席した時、視力回復の機器が紹介され、パンフレットには「1週間で視力が回復した」などと、その効果を謳う体験談が書いてありました。単なる広告ならともかく、医師向けセミナーで嘘はないだろうと、その場で機器を購入して1年間毎日使用しましたが、視力は落ちるばかりでした。それから「むしろ写真付き体験談はヤラセだ」と思い、信用しないことにしました。
では、いったい何を信じればよいのでしょうか?
やはり、売るために都合の良い体験談は無視して、科学的根拠に基づいているか否かを冷静に分析するべきだと思います。
あえてここで言わせてもらいますが、発毛·育毛でいうと、頭皮に何を塗ろうと効果は期待できないと私は思います。
運転中、ある育毛剤のラジオコマーシャルで、35歳の男性が「円形にツルツルした脱毛部分から1週間で太い毛が生えてきましたー!」と言っていました。
しかし、毛髪の再生過程では、細かい産毛が何カ月もの時間をかけて生えてくるものです。1週間で太い毛が生えてくるということは、医学的にはあり得ません。明らかに嘘です。しかも、その後に「効果には個人差があります」という、逃げ口上まで用意しているではありませんか。ラジオを聞いていてウンザリしました。
もちろん個人差があるのは事実ですし、本書の最初にも同じ但し書きがありますが、その意味合いは大きく異なります。眉唾ものの商品は元から効果が期待できない一方、私は医学的根拠に基づき、髪が生えてくるという信念の上で「効果には個人差があります」と記載しています。行間を読む……ではありませんが、こういった表現に注目すると、見えてくるものがあるかもしれません。
また、発毛サロンなどで、最初から高額コースを組まされてしまうパターンは信用できないと思います。そもそも、いくら通っても効かないから途中でやめたくなってしまうわけで、本当に効果のある発毛施術なら、当人が途中でやめたいとは思いませんから、一回一回、お金を支払ってもらえば良いのです。
私の医院には某業者に何百万円もドブに捨てた方がたくさんいらっしゃいます。「本当に効果があるから」と業者に説得され、最初にいろいろと高額機械を買わされた上にさらに高額コースを組まされ、結局、効果が何も得られなかった方たちです。
もし発毛していたとしても、維持のためにずっと何百万円も払わなければならなかったと思ったら、「途中で諦めてやめておいてよかった」ともおっしゃるほどです。
では、ここで「いったい何を信じればよいのか?」に戻りましょう。医者の立場から言うと、やはり薄毛は医学の力でしか治りませんから、まずは医者を信じてください。それも、最初から高額なコースを提示しない医者にしてください。
最初から50万円以上の施術コースや、1カ月分3万円以上の内服薬を勧めてくる場合は注意が必要です。
私ならそのようなことは絶対にやりません。なぜなら、そんなにお金をかけなくても、ちゃんと発毛するからです。
この記事で引用した書籍の著者

[経歴]
- 皮膚科医・漢方医・美容皮膚科医
- 日本皮膚科学会認定専門医
- 慶應義塾大学漢方医学センター非常勤講師
- 浜松医科大学漢方医学講座非常勤講師
- 日本医療毛髪再生研究会所属
- 日本抗加齢美容医療学会員
静岡と千葉に美容クリニックを展開。西洋医療と漢方を用いた東洋医療をミックスし、他院にないユニークな治療を実践している。漢方を用いた皮膚病治療を広めるため、日本各地で医師向けの講演会を実施するほか、美容関連書籍も執筆するなど、精力的に活動している。
著書

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ヨムトニック編集部からヒトコト!
消炎作用のある一部成分に、さも育毛効果があるように誘導する広告は、当編集部でも確認したことがあります。薬ではない製品は、効果を謳える成分が限られていますから、苦し紛れにそういったマーケティング手法を取ったのではないかと思われます。
いずれにせよ、正しい知識を持って対策をしないと、お金を無駄にすることにもなりかねません。本書、「最強!の毛髪再生医療 - 豊かな髪と再び出会える本」には、医師の目線から薄毛治療に関する知識が幅広く解説されています。自身でも薄毛について勉強したい、という人は、ぜひ購入して全編に目を通してみてください。