遺伝より生活習慣が薄毛に影響する理由

遺伝子は、人の身体の設計図です。その設計図の中に薄毛を引き起こすものがある、と言われたら、もうそれは避けようのないことだと感じてしまうかもしれません。しかし意外なことに、遺伝子よりも生活習慣の方が薄毛に深く関わっているのです。今回は、「55歳のハゲた私が76歳でフサフサになった理由」という書籍から、生活習慣と薄毛の関係について解説されている箇所を抜粋して紹介します。
「薄毛」という生活の前科歴
数年前、ハリウッドの有名女優が、乳がんを予防する目的で、がんのない乳房を切除したニュースが世界をめぐりました。彼女がこの決断に踏み切った理由は、「母親が乳がんで亡くなり、自分にも乳がんを起こす遺伝子が見つかった」というものです。
私は、がんや生活習慣病もそして若々しさも毛髪も、遺伝子よりも後天的な生活習慣のほうが重要なカギを握っていると考えています。たとえがんを起こす遺伝子を持っていたとしても、必ずがんになるとは限らないのです。
なぜなら、がんの発症には、エピジェネティクスによって変化したエピゲノムが関与しているからです。たとえば、がんになりやすい食べ物ばかりとったり、がんを起こしやすい食生活を続けていたり、そうした環境に住み続けていたりすると、エピゲノムががんを起こすように修飾されていきます。結果、人はがんを発症します。
これは薄毛の進行にも当てはまります。私たちは人それぞれさまざまな環境で生き、飲み食いすることで、細胞にエピジェネティクスな変化が生じ、薄毛が起こるのです。
そう考えると、エピゲノムはまるで自らの行動を示す「前科歴」のようなものだと思えてきませんか。不摂生が限界を超えて蓄積された時点で、目に見える形で細胞死や細胞老化が起こり、それらは「刑務所行き」になります。
薄毛に置き換えていえば、無意識にも頭髪をいじめるような生活を続けていると、髪の毛をつくり出すあらゆる細胞や組織が壊れて毛の再生能力を失い、抜け落ちて頭皮をさらして生きなければならなくなるということです。
ですから、「母方のおじいちゃんがハゲている」と遺伝性を恐れることはないのです。本当に恐れるべきは、遺伝子よりも悪しき生活習慣です。
そもそも、私たちの体は約37兆個の細胞からなっていますが、始まりはたった1個の受精卵でした。受精卵のDNAのコピーをくり返しながら細胞分裂し続けることによって体は成り立っています。腸をつくる細胞も、頭皮の細胞も、毛髪をつくる細胞も、もとを正せば一つの受精卵から始まっているというわけです。
なぜ、一つの受精卵から異なる組織が次々に現れるのでしょうか? 答えは、使っている遺伝子が異なることにあります。
すべての細胞は同じ遺伝子を持ちあわせていますが、使っている遺伝子は異なります。その違いは、エピジェネティックな機構によってなされたものです。細胞ごとに使わない遺伝子は制御され、不活性な部分に押し込められるのです。
このエピジェネティックな変化を起こす、もっとも大事な要素の一つが食事です。
食べるものによってエピジェネティックな変化は起こってくるのです。
たとえば、母親のとる栄養は、遺伝子以上に胎児の成長に影響を与えることが、動物実験でも確かめられています。「アグーチイエロー」と呼ばれる系統のネズミは、遺伝子の中に余分なDNA断片があるため、肥満体で体毛が黄色いという特徴を持ちます。このメスネズミに通常の食餌を与えると、母親と同じく黄色い体毛の子が生まれます。ところが、妊娠前と妊娠中·後期の母親にビタミンB12、葉酸、コリン、ベタインを与えると、体毛が褐色でスリムな子が生まれました。
遺伝子の制御に使われるメチル化合物の多い食餌を母親に与えたことで、子ネズミのDNAに変化が生じ、体毛が黄色になる遺伝子が沈黙したのです。
ハゲの遺伝子は食事で沈黙させられる
引用:55歳のハゲた私が76歳でフサフサになった理由
この記事で引用した書籍の著者

[経歴]
- 1939年 満州生まれ
- 1965年 東京医科歯科大学医学部卒業
- 1970年 東京大学大学院医学系研究科修了
- 1971年 テキサス大学研究員(微生物学)
- 1972年 順天堂大学医学部助教授(衛生学)
- 1977年 金沢医科大学教授(医動物学)
- 1981年 長崎大学医学部教授(医動物学)
- 1987年 東京医科歯科大学医学部教授(医動物学、国際環境寄生虫病学)
- 2005年 定年退官、名誉教授、人間総合科学大学教授(免疫・アレルギー学)
100冊以上もの書籍を出版している博覧強記の医学博士。専門は寄生虫学と熱帯医学、感染免疫学で、1983年に日本寄生虫学会小泉賞、2000年に日本文化振興会社会文化功労賞および国際文化栄誉賞を受賞するなどの実績を持つ。
著書

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ヨムトニック編集部からヒトコト!
エピジェネティクスとは、細胞の設計図である遺伝子が、生活習慣などの影響で微妙に変化する仕組みのことをいいます。
たとえば双子(一卵性双生児)は同じ遺伝子を持っていますが、年を重ねるにつれて顔つきなどに違いが出てきます。こうした違いはエピジェネティクスによって引き起こされるとされています。生まれた後にどういった生活習慣を送ってきたか、どういう環境で生きてきたか、ということが、遺伝子の設計を修飾してしまうわけです。
これをポジティブに解釈すると、薄毛を引き起こす遺伝子を持っていたとしても、それを後付けで変更できる可能性がある、ということになります。
今回文章を抜粋させていただいた書籍「55歳のハゲた私が76歳でフサフサになった理由」には、こうしたユニークな薄毛対策に関する情報が豊富に紹介されています。興味が湧いた方は、ぜひ購入して全編をチェックしてみてくださいね。
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