医師が語る、薄毛予防のための正しい知識

毛穴汚れがあると、いかにも髪に悪そうな印象を持ってしまいますよね。頭皮を清潔に保つために、丁寧にシャンプーしている人も多いと思います。しかし実は、必ずしもそれが薄毛予防の役に立つとは限りません。今回は書籍「最強!の毛髪再生医療 - 豊かな髪と再び出会える本」より、正しい薄毛予防の基本的な知識を抜粋して紹介します。
毛穴を清潔に保つことと薄毛の因果関係
薄毛予防のために「毛穴を清潔に保ちなさい」という指導もしばしば見聞きします。毛穴を清潔に保つことがどれほど大切か力説している発毛サロンも数多く存在していますし、髪の二度洗いを勧めている方もたくさんいます。
マイクロスコープを使って撮影した、皮脂が詰まった毛穴と、それがきれいに除去された毛穴の写真を載せた発毛サロンの広告を見かけたこともおありでしょう。しかし、私は毛穴をきれいにする必要はまったくないと考えています。
むしろ、毛穴をきれいにするためにゴシゴシ擦ったら、頭皮を守り水分を保持する角質層まで剥がれてしまいます。強い薬剤で毛穴の詰まり物を除去すれば、頭皮や毛根にまで悪影響が及ぶので、逆効果だと考えます。
角質層はオゾン層のごとく、人体にとってはとても重要なバリアの役目があります。しかし今、いろいろな場面で励行されていることは、むしろ角質層を傷め、隙間だらけにしたり、剥がしたりすることです。これは良くありません。
日本文学史上最古の長編物語『うつほ物語』には、平安時代の女性は一年に1回七夕の日に洗髪したとあります。また、江戸時代後期の風俗や物事について書かれた一種の百科事典『守貞謾稿(もりさだまんこう)』によると、江戸の女性は月1回か2回の洗髪、遊女は月1回の洗髪が定められていたそうです。その程度の洗髪でも、その時代の女性の髪の毛はフサフサだったわけです。
ちなみに私の母親は、記憶は定かではありませんが、大学の頃は一週間に1回石けんで洗髪するくらいだったそうです。今は3日に1回のシャンプー洗髪ですが、70歳後半でも髪がフサフサです。
先人の経験からも、刺激の強いシャンプーによる洗い過ぎが薄毛の一因になっていると私は考えます。
毛穴を清潔にすれば毛は生えるのか?
薄毛予防のためだけではなく、育毛剤が浸透しやすくするためにも「毛穴を清潔にしましょう」と言われます。
たしかに毛穴に詰まりがないほうが育毛剤は浸透しやすいのは事実ですが、肌や体に悪いものを頭に塗れば、同じように皮内や体内に浸透し蓄積していきます。
皮膚は角質層、有棘層、顆粒層、基底層という強固なバリア機能を備えているので、表皮に塗った物、例えばクリ―ムなどの成分は体の奥深くまで入り込まないと、かつては考えられていました。
ところが、最近の研究では、一部の成分が体の深くまで入り込むことがわかってきました。これを「経皮(けいひ)吸収」といいます。
泡立ちを良くする化学成分として加水分解小麦を多量に配合した石けんを使用したことで、多くの人が小麦アレルギーになってしまった事件を覚えている方もいらっしゃることでしょう。すぐに洗い流してしまう石けんでさえ、成分がそれほど体内深くに浸透してしまうわけです。
髪の健康長寿のためには、口から入れる物だけではなく、頭皮から入ってくる物にも気を付けなければなりません。頭皮も体の「口」であるというイメージを持って、日頃使っているシャンプーや養毛剤、化粧品の成分を確かめるべきでしょう。
経皮吸収とは、言い換えれば、塗った物を肌が吸収するということ。まさに「お肌の食事」そのものです。「お肌の食べ物」として、口に入れたくないような物が配合されているのは適切なわけがありません。
中国では、犬を白黒や虎柄に着色して「パンダ犬」「タイガー犬」などと名前を付けてペットとして売り出していますが、中にはかなり寿命を縮めているケースもあることから動物虐待だと問題になっています。やはり、直接体に触れるものは、シャンプーでも石けんでも化粧品でも、体に悪い成分が配合されているものは極力使用しないほうがいいでしょう。
毛穴をきれいにする成分自体が体に悪い物だと、きれいになった毛穴から余計に吸収されてしまう懸念もあります。
そもそも、薄毛治療や予防に毛穴をきれいにする必要はないことは歴史が証明しています。また、毛穴をきれいにしただけで髪の毛が生えてきたという事例は、残念ながら聞いたことがありません。
その「育毛シャンプー」、本当に効果がありますか?
抜け毛を気にして、いわゆる「育毛シャンプー」を使っている男性は多いことでしょう。頭皮の血行を良くするもの、低刺激性のもの、成長因子が配合されているものなどなど、「育毛」の根拠はさまざまなようです。
しかしながら、医師の立場から言わせてもらえば、この手のシャンプーを使って髪の毛が増えた……という事例は、残念ながら聞いたことがありません。
血行を良くするためのマッサージも「やらないよりはマシ」という程度のものです。なぜなら、頭皮の内側にある毛母細胞に作用しなければ発毛は望めないのですが、数分のマッサージでそこまで血流改善ができるとは到底思えないからです。
頭皮マッサージでも長時間やれば血流が良くなるとは思いますが、10分20分やってもほとんど効果は期待できません。
毛母細胞にちゃんと血液を送るまでの効果があるかというと、〝おまじない程度〟の効果だとしか言いようがないからです。実際、マッサージで毛が生えてきたという事例は、寡聞(かぶん)にして聞いたことはありません。
硬い頭皮を揉んだところで、果たしてどれくらい血流が良くなるのでしょうか。例えば、毎日1時間、上腕のある部分だけを揉んでいれば、そこだけ毛が濃くなってくるかというと、そのようなことは起こらないことは言うまでもありませんね。
私は一度、ある有名な発毛専門サロンが、どんな施術をしているのか興味が湧き、体験しにいったことはすでに述べていますが、そこで受けたマッサージと頭皮の脂取りは、医師から見て、とても効果があるとは思えないものでした。あれで実際に毛が生えた人がいるというのなら驚きです。
市販の育毛剤にしても、皮膚科学会がその効用を認めているのは、「ミノキシジル」という成分が配合されている『リアップ』(大正製薬)だけです。
広告などでよく目にするさまざまな薬用育毛剤も、成分の中には発毛に効果があると〝言われている〟ものが含まれています。しかし、実際に多くの患者さんの話を聞く限り、ミノキシジルやプロペシアなどと比べると、それほどの効果は期待できないと私は思っています。
この記事で引用した書籍の著者

[経歴]
- 皮膚科医・漢方医・美容皮膚科医
- 日本皮膚科学会認定専門医
- 慶應義塾大学漢方医学センター非常勤講師
- 浜松医科大学漢方医学講座非常勤講師
- 日本医療毛髪再生研究会所属
- 日本抗加齢美容医療学会員
静岡と千葉に美容クリニックを展開。西洋医療と漢方を用いた東洋医療をミックスし、他院にないユニークな治療を実践している。漢方を用いた皮膚病治療を広めるため、日本各地で医師向けの講演会を実施するほか、美容関連書籍も執筆するなど、精力的に活動している。
著書

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ヨムトニック編集部からヒトコト!
薄毛予防のために毛穴を清潔に保つ、というのは、一般的に考えられているよりも効果の見込めないものだったのですね。私たちは、無意識の先入観で自分の行動を決めてしまっています。可能な限り無駄な行動をしないためにも、正しい知識を身に着けることが大切です。
本書、「最強!の毛髪再生医療 - 豊かな髪と再び出会える本」には、こうした薄毛についての専門知識が幅広く解説されています。薄毛についてもっと知りたいしたい、という人は、ぜひ購入して読んでみてくださいね。